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カリブ海から世界経済へ。人文書院Web新連載『カリブ-世界論』

人文書院のサイトで、中村隆之氏によるカリブ‐世界論の連載が始まりました。
 
コロンブスによって「世界で最も美しい場所」とも呼ばれたマルティニック島を含むフランスの4つの元植民地で起きた、大規模なストライキ。このストライキををめぐって連載は開始されます。このリゾート地での出来事を、フランス本土の「68年5月」(いわゆる五月革命)や、チュニジアの「ジャスミン革命」と関連付け、さらに普段あまり知られることのないカリブ海の歴史的展開から、ヨーロッパ・アフリカ・カリブ海を繋ぐ三角貿易がどのように資本主義を発展させたかという話題に繋げていく、著者の中村氏の筆致は鮮やかです。
 

中村隆之氏も論考を寄せている『ブラック・ディアスポラ』書影
 
17・18世紀イギリスに産業上の発展をもたらした三角貿易は、第一に奴隷輸出のための造船業を中心に海運業を発達させ、。次いでアフリカ向けの毛織物・砂糖、そして船内で奴隷を縛る足枷や鎖などの産業が発展、この貿易で得た資本が金融業・重工業・保険業へ投資され、イギリス産業がさらに発展することになりました。
 
この産業の発展のなかで、たとえば砂糖の消費量が急激に増大します。有名なイギリスの「ティータイム」はこの時期に定着しています。それまでは王侯貴族だけのものであった砂糖ですが、貿易の発達とともに新しい消費文化となっていったのです。
 
興味深いことに、中村氏は奴隷制の廃止は「人道主義的理由よりも経済的理由から説明」される見解を紹介しています。砂糖生産量が世界的に拡大するなかで、砂糖を生産する植民地を保有し奴隷制を維持するメリットがなくなってきたことに着目しています。
     
大学受験の時にしかたなく勉強して頭に叩き込んだ「三角貿易」などの世界史の知識が、英仏の複雑な植民地政策や革命前後の事情の絡まり合いの中に活き活きとした意味を伴ってくるのはとても楽しい体験です。
連載の続きが楽しみですね。
 
目次
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プロローグ
ゼネストという出来事
LKP
「高度必需品宣言」
本書の試み
 
第一章 植民地と海外県、その断絶と連続
 
1 「カリブ海のフランス」という問題
小さな場所
カリブ海のフランス
植民地としての海外県
 
2 風景と痕跡
刻まれた岩
食人種の住む島々
サトウキビ畑
大邸宅と奴隷小屋
逃亡奴隷の森
 
3 植民地と奴隷制
フランス史のなかの島々
資本主義と奴隷制
フランスの植民地政策と奴隷制
〈革命〉と奴隷制廃止
1848年
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【関連記事・関連書籍】

砂糖の通った道《菓子から見た社会史》


大航海時代の結果として世界的に生産量・消費量の増加した砂糖。
江戸時代の日本から、その砂糖や、砂糖を使用したお菓子の歴史を辿った研究をまとめた一冊。
 

植民地を謳う シャンソンが煽った「魔性の楽園」幻想


植民地の現地人を「野蛮人」「食人種」と侮蔑しながら、歌謡曲シャンソンの歌詞などでは異国を魅惑的に描いてきたフランス。
その背景を元NHK国際局フランス語班チーフ・ディレクターの著者が追う。
 

見えない流れ


「ジャスミン革命」で知られるフランスがかつて植民地にしていたチュニジア。その首都チュニスを舞台にした小説です。
 

ラテンアメリカ銀と近世資本主義


植民地時代のラテンアメリカ銀山が、近世のヨーロッパ資本主義の成立と発展にどのような影響を与えたのか。その絶大な役割について実証的に解明する一冊。
 

 
【関連ページ】

早瀬晋三の書評ブログ?:?『両インド史 東インド篇』ギヨーム=トマ・レーナル著、大津真作訳

今回の連載で扱われるのはもっぱら西インド(現在のアメリカ)の植民地ですが、対する東インド(現在のインド以東の地域)の植民地について18世紀に書かれた文献についての書評。今回の連載とこの書評を読むことで、あまり知られていないフランスの植民地政策や当時の思想を概観することができます。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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裏返しの男、文盲、境遇、ファンタジー。先週の人気書評ランキング

「本が好き!」の週間人気書評ランキング(2/14~2/20)です
 
第1位はノッポのギタリストさんによる裏返しの男 (創元推理文庫)
堂々の★5つ。
「家畜運搬車をキャンピングカーに仕立てるなんて、日本人の発想ではとても考えられないだろう。羊脂と糞の臭いにまみれた家畜運搬車で寝泊まりし、食事をし、追跡の旅を行うのは、まるで現代の遊牧民のようだ。野趣溢れる旅だが、優しく繊細な空気感も持ち合わせている」という書評に、僕も思わず本書にトライしてみたくなりました。
 

第2位は、かもめ通信さんによる文盲 アゴタ・クリストフ自伝
『悪童日記』の著者として知られるアゴタ・クリストフの自伝。こちらも満点の★5つ。
昨年この世を去ったハンガリー出身の作家による、「敵語」すなわちドイツ語、ロシア語、フランス語との格闘。
 
第3位ははにぃさんによる境遇
『告白』の著者・湊かなえ氏がドラマのために書き下ろした作品。
親に捨てられ、児童養護施設で育てられた親友二人が巻き込まれる事件を描く。
 
第4位は今回もかもめ通信さん。しかも今回もル=グウィンの本です。今回は評論集いまファンタジーにできること
「ただ一度のキスが静寂な世界を打ち破る」という書き出しが印象的です。

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とれたて!近刊情報(2012年2月21日)

本日とれたての近刊情報から、ナガタが気になったタイトルをピックアップしてお届けします。
 

ジョン・ディクスン・カー『蝋人形館の殺人

大森望ほか『大森 望 [編

シャーロック・ホームズ家の料理読本

世界の五大料理基本事典』目次あり

歴史人口学からみた結婚・離婚・再婚』書影・目次あり

本が好き!らぼ「近刊情報サーチ」新着情報一覧より。

とれたて!近刊情報(2012年2月20日)

本日とれたての近刊情報から、ナガタが気になったタイトルをピックアップしてお届けします。
 

シェイクスピアとエンブレム ~人文主義の文化的基層』目次あり

近代日本会社史総覧 (全2巻)』書影あり

漁業という日本の問題』目次あり

地下鉄の不思議な話

時速33キロから始まる日本鉄道史

 
本が好き!らぼ「近刊情報サーチ」新着情報一覧より。

混乱の中で自由に音楽を語るために。『同人音楽とその周辺』

音楽って何なんでしょうねえ。僕は大学で学生だったころは、音楽を研究対象にしていました。卒論のテーマはウォークマン。いろんなことを勉強しました。音楽についてどう学問で扱うことができるのか、知りたいと思いながら、結局、満足のいく答えを手にすることができませんでした。
 
音楽って何なのか、という問題は本当に難しい。昔なら、楽器を弾いたり歌を歌う人がいて、その場を楽しむことが音楽だったと断言できるでしょう。その「音楽」は宗教儀式にも使われ、軍隊の士気を高め、敵を威嚇するものになり、政治的なパフォーマンスにも使われるようになります。楽譜が発明され、作曲や演奏技術が洗練されるようになると、それを理解できる人とそうでない人が分かれ、高級な音楽とそうでない音楽という分類も生み出されます。異なる文明が出会うときには、互いの音楽を好きになったり嫌いになったりするでしょう。そのときにどっちの音楽がより優れているか、議論が起きることもあるでしょう。古今東西、多くの音楽が禁止され、迫害されてきました。
 
メディアの発達につれて、異なる文化が出会う頻度は幾何級数的に増加します。現代に近づくにしたがって、人々の「音楽」観はどんどん混乱を呈していきます。学生時代の僕は結局その混乱から脱することができなかったんだろうと思います。先日刊行された同人音楽とその周辺: 新世紀の振源をめぐる技術・制度・概念は、この類の混迷を極める音楽について、かなり明晰な分析を行なっている良書です。本書の著者はネットワーク・ミュージッキング―「参照の時代」の音楽文化の井手口彰典氏。
 
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隣国の姿をとらえ直す。「atプラス 特集:帝国としての中国」

隣国であり、文化的には長い間強烈で根深い影響をもたらしてきた中国。日本は第二次大戦後、占領国だったアメリカの影響のほうが強いように思われますが、これから中国が発展していくかも知れないことを考えると、新しい考え方で中国を捉え直す必要があるのかも知れません。
 
先日発売された雑誌「atプラス」の特集は帝国としての中国
思想と活動、をテーマに編集されているこの雑誌は、以前から刺激的な特集をたくさん組んできましたが、今回は中国化する日本で各界の絶賛を受けている若手研究者の與那覇潤氏と評論家の大塚英志氏の対談などを掲載。
 
この特集も興味深いのですが、ダブルヘッダーともいうべきビッグネームの対談も巻頭に収録。こちらも見逃せません。暇と退屈の倫理学で昨年の紀伊國屋じんぶん大賞―読者がえらぶ人文書ベストブック第1位を受賞した國分功一郎氏(ちなみに先述の『中国化する日本』は同賞の第4位)と、グリーンアクティブという団体を宮台真司氏やいとうせいこう氏らと立ち上げた文化人類学者の中沢新一氏による対談です。「〈原子力の時代>から先史の哲学へ」と題されたこの対談は、「学生の頃からずっといろいろ勉強させてもらった」という國分氏が中沢氏に「全力で向かった」と語る充実の内容。
 
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とれたて!近刊情報(2012年2月16日)

本日とれたての近刊情報から、ナガタが気になったタイトルをピックアップしてお届けします。
 

造形ワークショップを支える ~ファシリテータのちから』目次あり

哲学してみる

佐藤 優『紳士協定

 
本が好き!らぼ「近刊情報サーチ」新着情報一覧より。

芸術作品の根源とは何なのか。『いまだない世界を求めて』

ロドルフ・ガシェという哲学者を紹介するのは難しい。
ただ活動していた国を列挙するだけでもややこしいくらいだ。ガシェは、20世紀前半にヨーロッパの小国ルクセンブルクに生まれ、1960年代後半からパリに留学、ベルリンで哲学博士号を取得したのち1975年からアメリカに移住した。留学先のパリでは、デリダ、アルチュセール、ラカンらの指導のもと研究をかさね、デリダの初期主要著作エクリチュールと差異、ラカンのエクリをドイツ語訳し、ドイツへのフランス現代思想の紹介に重要な役割を果たした。なお、移住先のアメリカではガシェはデリダ研究の業績で知られている。
ガシェは、ドイツ語とフランス語で高等教育を受け、大学では英語で講義し、自宅ではフランス語で語る。母親はオランダ系で、母国語はあくまでルクセンブルク語とオランダ語だが、ドイツ語・フランス語・英語で書かなければならない哲学者である。彼をどこの国の人だと認識するべきなのだろうか。
 
その彼の論考をまとめた書籍いまだない世界を求めてが先日刊行された。タイトルを銀色に箔押しした浅葱色の装幀が目を引くが、本文の紙も淡い緑色で文字は濃緑。デザインに一貫した思想を感じさせる。書影写真だけではとても伝わらない魅力があるので、是非書店で手にとってみて欲しい。
収録されているのは、ナチスドイツとの癒着関係によって未だ危険視される哲学者ハイデッガーの芸術論、日本でも教鞭をとった哲学史家レーヴィットの思想、そしてデリダにおける「ヨーロッパ」と「責任」という哲学的概念、という3つの異なる領域についての論考と、訳者によるガシェの思想を概略する丁寧なインタビューと解説。
 
いまだない世界を求めて (続きを読む…)

とれたて!近刊情報(2012年2月15日)

本日とれたての近刊情報から、ナガタが気になったタイトルをピックアップしてお届けします。
 

矢部 史郎『3・12の思想』目次あり

新版 graphic design ~視覚伝達デザイン基礎』目次あり

武田 悠一『読みの抗争(仮) ~現代批評のレトリック

古病理学事典』目次あり

茶掛入門 一行書 50のレッスン

キャラクター大全 仮面ライダー大全 平成編 AD2000-2011

 
本が好き!らぼ「近刊情報サーチ」新着情報一覧より。

現代SFの最先端!むせかえる官能と悪趣味の世界『第六ポンプ』

映画ブレードランナーがかっこよかったのは、アジア的な熱気を帯びた近未来都市を描いたからでした。その熱気は、そこに生きる人々や人ならざる者たちの生命活動の痕跡として、様々な汚れを強調することで描かれていました。バチガルピの作品にも、その魅力が引き継がれているといっていいでしょう。
 
いまSF作家のなかで最も注目されている一人であるパオロ・バチガルピは、昨年文庫が刊行されたねじまき少女で、長編デビュー作にしてネビュラ賞・ヒューゴ賞・ローカス賞・キャンペル記念賞という名だたるSF賞を総ナメにしました。今回、文庫にまとめられた第六ポンプは、本邦初訳となるバチガルピのデビュー作から『ねじまき少女』直前までの短編10作品を収録したもの。たっぷり二段組みで400ページ。ビニールカバー付きで重量感があります。
巻頭の「ポケットのなかの法<ダルマ>」は、デビュー作とは思えない密度のある作品。バチガルピらしいジメジメとした空気感、国際的な政治的・経済的対立の気配、都市文化のなかで死や危険と隣り合わせに生きていく地方出身の弱者の姿が描きこまれています。
 
第六ポンプ (続きを読む…)